近所の商店街のくじで当たった海旅行。
初めてふたりで来た海だった。
「別に、あんたとじゃなくてもよかったんだけど」
そう言った妹の声は、どこか弁解のようだった。

照りつける夏の日差しの下、焼けた砂浜を並んで歩く。
小さなビーチサンダルの音が、波の音にかき消されるたび、心がざわついた。
水着姿の彼女を、見るべきか、見てはいけないのか。視線の置き場に困っていると、ふいに言われた。

「そんなに見なくていいんだけど。……目、泳いでるし」

頬が熱くなるのを感じた。けれど彼女のその声も、どこか揶揄というよりは照れ隠しのようで、
いつものツンとした態度の奥に、少しだけ柔らかさを感じた気がした。

波打ち際ではしゃぎ、アイスを買って、砂の上で半分こした。
「お前、意外と楽しそうだったな」
「……意外とは余計」

つっけんどんな口ぶりとは裏腹に妹の笑顔は穏やかだった。

午後の陽がやわらぎ始めたころ、ふと彼女が俺の肩にもたれてきた。
「背中、ちょっと焼けすぎたかも……。冷やして」
素直にそう言って、背を向ける。
俺の指先は、焼けた肌の温もりに触れた。妹の肩がわずかに震える。
けれど拒むことはなく、むしろ、少しだけ背中を預けてきた。

「……今日、来てよかった」

そのつぶやきは波音に紛れたけれど、はっきりと俺の心を震わせた。

夕暮れ、二人で岩場に腰を下ろした。
茜色の空が、静かに海を染めてゆく。
彼女は隣で、うつむいたまま口を開いた。

「さっきの……その、なんか、ごめん。変なこと言ったかも」

「……変じゃない。嬉しかった」

そう答えると、彼女はふっと視線を逸らし、耳のあたりが赤く染まっていた。

「……バカ。そういうの、素直に言うなよ」

その言葉の裏にある微かな照れと優しさに気づいて、俺は静かに笑った。

「次はさ……ちゃんと誘ってよね。もっと‘デート’っぽいやつ」

そう言った彼女の横顔は、夕陽に染まって、とても綺麗だった。

たぶん、今日という日は。
俺たちにとって、少しだけ勇気を出した、特別な夏の始まりだった。

FANZA